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旅行・勉強・自炊など。気分はいつでも船の上。筆者は元旅行会社勤務⇒現在はメーカー人事

横山秀夫『ノースライト』を読んだ

STAY HOME週間にしたいこととして挙げた、横山秀夫ノースライト』を早速読んだ。

正直なところ、連休の後半に回したらよかった。せめて半ば課題図書のような『7つの習慣』のほうを先に読むべきだった。ノースライト』に出合えただけで、もうこれから先の4日間何もせずに過ごしたとしても、有意義な6連休だったと思えてしまう

社会人1年目の頃、遅まきながら前作の『64』で初めて横山秀夫の作品を読み、あまりの素晴らしさに驚いて、そこから半年程度で単行本化されている作品は全て読んだ。父も横山秀夫の作品が好きで、7割程度は既に自宅にあったのでとてもスムーズだった。
けれど、今考えると本当にもったいないことしたと思う。横山秀夫が5~10年に1回しか新作を発表しない作家だと知っていたら、この先の人生のために既刊の作品を温存しておいたのに!笑

さて、横山秀夫といえばミステリー、特に警察小説、とりわけ警務部などの裏方を主役にした小説が多く、『64』はその集大成。*1
また、序盤はなかなか事件らしい事件が起きず、登場人物の身辺を回りくどいと感じるほど丁寧に描写していくことや、「盗人にも三分の理」を地で行くような、各々の信念や職業への誇りをもって生きている登場人物が多いことも特徴だと思う。

一方、『ノースライト』は警察小説ではない。また、本作が「ミステリー小説」かどうかで意見が割れているらしいことも、他の横山作品にはない特徴だと思う。*2 ちなみに、私個人としては、本文120ページの一文によって、『ノースライト』は間違いなくミステリー小説、あるいは「探偵小説」だと考えている。

そんなわけで本作は一見横山作品らしくない。でも、実際に読んでみると回りくどさと人間観はいつも以上に全開で、「ああ、横山秀夫を読んだ!」と思わせてくれる作品だった。

ノースライト』はトリックに寄りかかった小説ではないけれど、ミステリー小説である以上、中身について深く言及するのも野暮だと思うので軽く感想を残しておくことにする。

主人公は雇われ建築士の青瀬。バブル崩壊の波に呑まれ、情熱も失い、自堕落に生きていたが、3年前に大学時代の同級生に拾われた。青瀬は昨年、とある家族のために一軒の家を建てた。完成した「Y邸」は渾身の出来映えで、施主も大層感激していた。しかし、引き渡しから数ヶ月後、ひょんなことからY邸には誰も住んでいないらしいということを知り……といった内容。

序盤から中盤にかけて、青瀬の(寝ている間に見るほうの)夢や回想が繰り返し描かれる。この物語はどこに向かっているんだろう?と心配になりつつ、相変わらず描写が上手いなあ、めちゃめちゃ取材したんだろうなあ、などと距離を保ちながら読み進めると、徐々に、着実に、熱量が上がっていく。だんだん他人事でなくなっていく。
特に印象的だったのは、終盤、文体が一人称へ切り替わるところ。長い助走を経て跳び立ったような感覚になり、あまりにも効果的で唸ってしまった。

このブログで旅行ガイドブック以外の本の感想*3 を書くことなんて絶対にないと思っていたけど、7年ぶりの新作でテンションが上がって書いてしまったなあ……。
何年後かわからないけど次の新刊も楽しみです。

 

*1:一般知名度が高いと思われる『半落ち』『クライマーズ・ハイ』はいずれも警察小説ではないけれど

*2:出口のない海』『クライマーズ・ハイ』以外の既刊が広義での「ミステリー小説」に分類されることに異論はないと思う

*3:書評、とは畏れ多くてとても言えない